黒瀬谷ってどんなところ?

山あいの小さな集落に、キラリと光る人たち。富山市八尾町の黒瀬谷(くろせだに)。
ここには、豊かな自然の恵みと地域の繋がりを大切にしながら、自分らしく毎日を楽しむ人たちが暮らしています。新鮮な野菜が並ぶ「菜菜こられ市」や、ホタルやカブトムシが潜むビオトープ、季節ごとの収穫体験。
黒瀬谷ならではの“お楽しみ”は、自然とともに、そして人と人とが寄り添いながら育んできたものばかり。この黒瀬谷特集では、そんな黒瀬谷で暮らす人々の姿を、4回にわたってご紹介します。
第1回は、スローライフの達人 谷内美和子(やち みわこ)さん。
「無理はしないのよ」という言葉が、印象的な谷内さん。彼女の黒瀬谷ライフは、とても自然体です。趣味の範囲と聞いて見せていただいた畑には、想像を超える果樹や花、野菜が育っていました。
富山の小さな集落「黒瀬谷」のキラリ輝く人たちを、あなたにもお届けします。
黒瀬谷でスローライフを楽しむ「谷内美和子さん」
大好きな黒瀬谷でふたり暮らし

谷内美和子さんは、生まれも育ちも黒瀬谷。三姉妹の長女として生を受け、家を継いだ後も黒瀬谷で暮らし続けています。
ここでの生活は「街まで近いし、とっても静かだし、人もいい人ばっかり」と美和子さん。ふたりのお子さんは、既に親元を離れ、現在はご主人とふたり暮らし。
勤めていた会社を定年後は、花と野菜づくりが、生活の中心になっているそう。起床は朝5時前。お茶を作り、夏は涼しいうちにご主人と一緒に畑へ向かいます。
「毎日、出荷する分だけ見てね。お父さんは野菜、私は花担当。でも、暑かったら行かないのよ」
あくまで“無理をしない”というのが、美和子さんのスタンス。8時までには家に戻って朝食を済ませ、9時には喜楽里館(黒瀬谷交流センター)へ花や野菜を届けに行くのが日常のルーティンになっています。


知り合いから声をかけられ、富山市の『地場もん屋』に花や野菜を出荷し始めたのは15年ほど前から。
「喜楽里館に、毎日、集荷に来てくれるし。それに、ちょっとお小遣いになるでしょ」
20人ほどが品物を持ち寄る集荷場は、美和子さんにとって大切な商品観察と情報収集の場になっています。変わった野菜があれば作ってみたり、生け花に使われると聞けば、桃や桜、アジサイといった“枝もの”を出してみたり。
チャレンジする姿勢に、こだわりの高さを感じるのですが「私なんて趣味の範囲だからぁ」と、朗らかにおっしゃるのでした。
趣味の範囲を超えている!谷内さんの畑
果樹が香る花畑

7月上旬に訪れた美和子さんの畑は、緑の稲が揺れる田園の中にありました。その広さ、およそ1,000㎡。かつて田んぼだったという畑に近づくと、ふんわりと甘いイチジクの香りに気がつきます。


「バナーネっていう品種のイチジクで、完熟してもこんな感じの色。ここには10本あってね、蜂も食べにくるわ」
イチジクや柿、栗の木ゾーンを抜けると、次はヒマワリや千日紅、ユリやケイトウ、グラジオラスなどの花畑ゾーン。さらにその奥には野菜ゾーンが広がります。

想像していた規模とは全く違う畑のスケールに、これは趣味の範囲を超えているのでは?と思わず聞くと、フフフフと美和子さんは笑うだけ。
咲きそろう多彩な花々





黒ほおずきに、エキナセア、ノコギリソウ…。
谷内さんの花畑には、まだまだ知らない、見たことも聞いたこともない花がいっぱい!


「これはね、ベニヒマ。このチクチクしてるところが実ね。ベニヒマは生け花に使われるの」
ここにある花のひとつひとつを順に伺うのも、なんだか申し訳なくなり、何種類ほどの花を育ててるのかとたずねてみたら、返事に困っているご様子。納得です!

これぞ自家菜園の醍醐味
谷内家では、朝食に、採れたての野菜を食卓に出すことにしています。
ご主人の好きな野菜はジャガイモ。これまでに、いろいろな品種を試した中から「キタアカリ」と「メークイン」に絞って栽培しているそう。
お気に入りの食べ方は“塩ゆでジャガイモ”。ホクホクとした食感と甘さを味わうには、やはりシンプルな味付けが一番のようです。
プロが畑を見たがった!美和子さんの野菜
春夏野菜から秋冬野菜まで、一年を通して野菜づくりを楽しみながら、家庭で食べたり、店に出荷したりの、そんなある日。
美和子さんが作った「オレンジ白菜」を『地場もん屋』で買ったという飲食店の人から「どんな風に作っているのか、一度、畑を見せて欲しい」と電話が入ったそうです。
で、どうしたんですか?
「え~、断ったよ。だって、恥ずかしいもん」
谷内美和子さんの“お楽しみ”
美和子さんは、週に一度、友だちと連れだって「命の貯蓄体操」に通い、もう10年になります。
「丹田呼吸法(たんでんこきゅうほう)っていうゆっくり動く体操で、無理しないの」
どうりで、毎朝畑に向かう体力は、ここから来ていたようです。

野菜と花づくりにかける好奇心を輝かせながら黒瀬谷の恵みを活かし、楽しみながら自然体で暮らす美和子さん。
花や野菜を売ったお小遣いの使い道をたずねると…
「友だちと温泉に行ったり、お食事に行ったりするの」
黒瀬谷には、決して無理せず、ゆったり穏やかな時間が流れる美和子さんの生活がありました。