黒瀬谷ってどんなところ?

山あいの小さな集落に、キラリと光る人たち。
富山市八尾町の黒瀬谷(くろせだに)。
ここには、豊かな自然の恵みと地域の繋がりを大切にしながら、自分らしく毎日を楽しむ人たちが暮らしています。新鮮な野菜が並ぶ「菜菜こられ市」や、ホタルやカブトムシが潜むビオトープ、季節ごとの収穫体験。
黒瀬谷ならではの“お楽しみ”は、自然とともに、そして人と人とが寄り添いながら育んできたものばかり。この黒瀬谷特集では、そんな黒瀬谷で暮らす人々の姿を、4回にわたってご紹介します。
第3回は、“じっくりアクティブ”な宮田好一(みやた よしかず)さん。
周囲を巻き込みながら、地道に動き続ける宮田さんは頼もしい存在です。見据えているのは、10年先の黒瀬谷。自分で考え自ら動く宮田さんの“お楽しみ”は、未来へのバトンのよう。
富山の小さな集落「黒瀬谷」のキラリ輝く人たちを、あなたにもお届けします。
黒瀬谷の魅力を残すために動く「宮田好一」さん
時間をかけて結束した黒瀬谷

宮田好一さんは、黒瀬谷地区の米農家に生まれた三代目。現在、小長谷で三世帯で暮らしています。
1994年に小長谷営農組合の組合長になってから、営農組織の法人化などを経て、黒瀬谷に複数あった営農組織の合併に努めてきました。その期間、およそ25年。
農業を一度やめてしまうと、農地は遊休化しやすくなる…。それは、黒瀬谷に広がる農地を守り、営農し続けるための好一さんの奮闘でした。
2020年までに、小長谷、樫尾、岩屋、宮腰、新杉などの組織がまとまり、経営耕地は123ヘクタールに。黒瀬谷地区にある農地の約9割に及び、この規模は富山県内の中山間地でも、ここだけだそうです。
「65歳までは会社員をしながら、農地をまとめながら。その合間に畑で野菜を作ったり、花を作ったりしてね」
仕事をしながら、交渉を重ねる好一さんの苦労も大変だったと想像しますが、同じ方向へ、一緒に進むことを決めた、黒瀬谷の方々の結束力の強さも感じます。

黒瀬谷を出ようと思ったことは?と、たずねると…
「それは、ないね。だって、ここは悪いところじゃない」と即答されたのでした。
黒瀬谷の景色に溶け込む宮田さんの畑
羨ましい畑の恵み

畑仕事は遊び半分だから、と見せていただいた自宅前の畑は広大なものでした。子供の頃に木登りをしたという栗の木が敷地を囲んでいます。


ナツメやブドウの果樹の隣に、蝶が舞う花畑。そこで見せる好一さんの表情が、本当に穏やかでやさしい。



ナスやキュウリにトウモロコシ。ピーマン、ニンニク、ジャガイモなどなど。畑で野菜が採れる間は、スーパーで買うこともないそうで、羨ましい限りです。
「もちろん、肥料や資材の持ち出しもあるけど、畑仕事は身体を動かせることがいい。元気でいられるし、予定を立てたり、頭も使うしね」


身体が丈夫なのは、自分たちで作った新鮮なものを食べているからかなぁと、見せていただいたトマトの大きいこと!こんな大玉のミニトマトは、なかなか見たことがありません!

奥様お手製!絶品ジュース

「はい、どうぞ」と差し出されたのは、畑の赤紫蘇から作る、奥様手づくりの“紫蘇ジュース”。
やさしい甘さと、のど越しのスッキリ感。爽やかな紫蘇の香りが心地よく残ります。

畑仕事の合間に、ふたりで紫蘇ジュースを飲んでいるのかなぁと思うと、ほっこりします。
実は、7~8月の「菜菜こられ市」に登場する、「紫蘇シロップのかき氷」には、この奥様お手製のシロップが使われていて、大人気なのだそうですよ!
宮田さんの好きな黒瀬谷


「目の前には山があって、山際を通って届く水が田を潤している。昔と違って、道も電気も通ってるし、不便なことはない。夜は静かでホタルが飛んだり、カエルの声が聞こえたり。あぁ、いいなぁって思うが」
決して、無くしたくない黒瀬谷の風景。山を眺めながら、ポツリ、ポツリとお話される好一さんの実感が伝わってきます。
「ただ、強いて言うならね…。残念なのは、立山連峰が見えないことかな。ここは、山あいだから」
宮田好一さんの“お楽しみ”
何か“変わっとっこと”、せんなん!
2025年の3月、樫尾小学校が八尾小学校に統合され、閉校。黒瀬谷地区に残る最後の小学校でした。
これまで、黒瀬谷地区にあった小学校の閉校を見てきた好一さん。
「小学校がなくなると、活気がなくなって、寂しい、静かになっていくんだよね…」
そうはさせたくない!では、どうするか?
「何かひとつ、“変わっとっこと”、せんなん!」と、好一さんは動きだします。
未来へのバトン
喜楽里館(黒瀬谷交流センター)の完成を機に、1999年から始まった「菜菜こられ市」は開催回数、200超えのロングラン朝市です。
この運営メンバーと一緒になって、好一さんは子供たちが集まる“お楽しみ”を仕掛けています。
「子供たちが来れば、親御さんも一緒に来てくれるでしょ」

ジャガイモなど季節野菜の収穫体験や、カブトムシやクワガタが集まる場所づくり。ブルーベリーのコンテナ栽培もスタートさせ、摘み取りやジャム作り体験など構想を膨らませています。
「一番やりたいのは、ホタルの鑑賞会ね」
喜楽里館の裏手にビオトープを整えたら、今年、予想以上のホタルを確認することができ、来夏の鑑賞会開催にむけて手ごたえを感じたそうです。
「なんとか、現在の活動を維持していけたら、10年とか15年後の次の世代で、考え、協力する人が出てきてくれるんじゃないかって」
そのために“今ある勢い”を止めない。大好きな黒瀬谷を未来に残すため、今動くことが、宮田さんの“お楽しみ”です。
