黒瀬谷ってどんなところ?

山あいの小さな集落に、キラリと光る人たち。富山市八尾町の黒瀬谷(くろせだに)。
ここには、豊かな自然の恵みと地域の繋がりを大切にしながら、自分らしく毎日を楽しむ人たちが暮らしています。新鮮な野菜が並ぶ「菜菜こられ市」や、ホタルやカブトムシが潜むビオトープ、季節ごとの収穫体験。
黒瀬谷ならではの“お楽しみ”は、自然とともに、そして人と人とが寄り添いながら育んできたものばかり。
この黒瀬谷特集では、そんな黒瀬谷で暮らす人々の姿を、4回にわたってご紹介します。第2回は、喜ぶ顔が“お楽しみ”の村杉義弘(むらすぎ よしひろ)さん。
杉村さんのストイックな畑と野菜づくりには、目を見張るものがあります。堅実で挑戦的な畑仕事の先には、村杉さんをほころばせる“お楽しみ”がありました。
富山の小さな集落「黒瀬谷」のキラリ輝く人たちを、あなたにもお届けします。
黒瀬谷で真摯に野菜づくり「村杉義弘」さん
探求とこだわりの人

実直で几帳面。
黒瀬谷で村杉義弘さんを知る人はみな、口を揃えます。
それは、畑を見れば、一目瞭然。作物の配置が美しく、雑草が見当たらない。そして畝のエッジが効いている。


黒瀬谷地区の小長谷に生まれ育った義弘さんは、肥料を扱う会社に勤めていたことから、55歳の頃より、仕事のかたわら畑を始めたそうです。
「自分の知っている肥料が、どう野菜づくりに働くのか」
「コントロールできない天候と、どう向き合うか」
「野菜づくりは好きなようにできるけど、失敗しても自分のせいだから」
言葉の端々から、義弘さんの飽くなき探求心が垣間見えます。
「野菜づくりは、親父の見まねでも、我流でもダメだ」と、通信教育で栽培の基礎を学んだり、講座に通ったりして、自身の畑にフィードバックしています。
“野菜戦略”が面白い!
村杉さんの畑は休まない

義弘さんは、とにかく畑を遊ばせておくことをしません。畑を休ませると、すぐに雑草が生えてしまうからだそう。
「ここは、3月下旬に二十日大根、次はタマネギ、5月にオクラの種を直播にして、11月頃にはネギ」
ずっと同じ場所に作り続けて大丈夫ですか?と聞くと
「連作を避けとるからね」
では、義弘さんも休む暇がないのでは?とさらに聞くと
「畑がないと、時間つぶせんちゃ~」
あまり人の作らない野菜をつくる

「これはね、スジナシインゲン」
筋のないインゲンだなんて、ありがたい!そのまま手軽に調理できるスジナシインゲンは、煮物や、よごし、かき揚げなど、なんでも美味しいと義弘さん。


家庭で使う野菜のほかは、富山市の『地場もん屋』と地元のスーパーに出荷している義弘さんのポリシーは、“競争相手があまりいない野菜をつくる”こと。
ツルムラサキ150株強、オクラ16株。毎年だいたい1,000袋ほど出荷できたらOKと、自ら収穫量の合格ラインを設けています。去年のオクラは、1,200袋ほど出せたと嬉しそうに教えてくれました。

大きく立派なツルムラサキやオクラの栽培は、義弘さんの“人と被らない野菜戦略”なのですが、当のご本人は、ネバネバが苦手で食べられないというチャーミングな一面もお持ちです。
身体が続く限り畑仕事を続けたい
早朝3時半には目覚め、4時から畑に出ている義弘さんは、日が暮れるまでのほとんどの時間を畑で過ごします。
「親が丈夫に生んでくれたから、おかげ様で腰など痛ならんタイプ。ずっと畑にいたら、暑い日なんかは、家内から家に入られと心配されるわ」
寝る前には明日の予定を計画し、毎日の栽培記録も欠かしません。身体が続く間は畑がしたいと話す義弘さんは、御年78には見えない、若々しさです。
村杉義弘さんの“お楽しみ”
黒瀬谷のどんなところが好きですか?とたずねると…「別にねぇ~」と、しばらく時間を置いたあと、
「確かに、若い人も少なくなってきたわね。でもね、今、ここで『菜菜こられ市』とかイベントなんかを企画して頑張っとる人たちがいるからさ。10年後とかにつながったらいいよね」


そう話す義弘さんの視線の先には、ハクビシンから守るカゴの中で、黒スイカの「くろがね」が育っていました。
黒く厚い皮に覆われた真っ赤な果肉はシャキシャキとした食感で、強い甘味が特徴。義弘さん宅のお向かいに住む、3人のお孫さんの大好物だそう。喜んで食べてくれるからと、笑みがこぼれます。

「好んで食べてくれる人がいるから、作っとる」
義弘さんが作る野菜には、固定ファンも多く、黒瀬谷地区のお隣り、晴巒台(せいらんだい)の団地の奥さんから、出荷の時期を問い合わせる電話がかかってくることもあるそうです。
なぜ、団地の奥さんは、義弘さん家の電話番号が分ったんですかね?とたずねると「あれ、ほんまやね」と、にっこり。
黒瀬谷での野菜づくりは、義弘さんの探求心を満たす場。そして、そこから広がる、人との心地よい関わり合いが、この地で暮らす義弘さんの“お楽しみ”のようです。