バリアフリー住宅と聞くと、高齢者や障がいがある方のための住宅をイメージする人が多いのではないでしょうか。でも実はすべての年代誰もが過ごしやすい家なのです。
バリアフリー住宅とはどういうものか、設備別のポイント、費用相場や補助金もあわせて紹介しますので、新築や建替えの参考にしてみてください。
バリアフリー住宅とは?
バリアフリー住宅とは、生活の中で障壁となるものをなくす「バリアフリー」を取り入れた住宅です。一般的には住まいの段差をなくす、手すりを付けるなど、生活しやすいように設備やシステムを備えて日常生活に支障がないようにします。
バリアフリー住宅は、高齢者や障がいがある方の妨げになっていることを解消することで、高齢者や障がいがある方はもちろん、家族みんなが安全でストレスフリーに過ごすことができる家になります。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
バリアフリーに似ている概念にユニバーサルデザインというものがあります。
バリアフリーは主に、高齢者や障がいがある方が生活をしていくうえで、不便になっていることや壁になっていることを除去することです。
それに対してユニバーサルデザインは、最初から誰もが使いやすいデザインを取り入れようというものです。年齢や障害、国籍や言葉、性別、身体の状況など様々な個性にかかわらず、すべての人が暮らしやすい社会になるように広い範囲で考えられています。
バリアフリー住宅づくりのポイント7選
バリアフリー住宅づくりは家の一部だけをバリアフリーにするだけでは十分と言えません。バリアフリー住宅をつくるにあたって、特にバリアフリーを取り入れたい設備を7つ紹介します。
- 玄関
- トイレ
- 洗面所
- 浴室
- リビング
- キッチン
- 廊下
それぞれの設備でどのようなポイントを押さえるべきか、解説していきます。
なお、バリアフリー住宅は「車椅子で生活する家」を想定しておくと考えやすいです。車椅子の幅は日本工業規格(JIS)により、700mm以下であるべきとされています。車椅子が通るために120cm以上の幅を確保することが望ましいでしょう。
バリアフリー住宅づくりのポイント【玄関編】
玄関は家を出入りするのに避けては通れない場所です。ひとりでの外出はもちろん、介護が必要な家族との外出もスムーズにできるように、バリアフリーに設計するのがおすすめです。
玄関前の階段をスロープにする
スロープで段差をなくすと、階段の昇降が困難な方や車椅子の方の移動が容易になります。ひとりでの移動はもちろん、家族が介助する際にもサポートがしやすくなります。
階段をスロープにすることで、車椅子などの出入りが楽になり介助者もサポートしやすくなります。段差がなくなり転倒もしにくくなるため、足の不自由な方だけではなく小さな子どもや妊婦さんも安心です。
玄関ドアは引き戸にする
玄関ドアが開き戸の場合、ドアの可動域が大きいため車椅子が出入りするには非常に不便ですが、引き戸にすることで開閉が楽になります。さらに吊り下げ式の引き戸にすることで弱い力でも開閉できるようになり、足元のレールもなくなるので段差がなく車椅子の出入りもスムーズです。
また、ドアの開閉が自力では難しい方の場合はリモコンキーで自動開閉できるドアを選ぶのがおすすめです。介助者にとっても、目や手を離さずにドアを開閉できるため安心です。
上がり框(あがりかまち)はフラットにする
日本の家ならではの「外」と「内」を分ける上がり框ですが、通常だと20~30cm前後の高さにもなっています。普段暮らしている中ではなんてことない段差ですが、身体機能が衰えると大きな障害となってしまいます。
とくに車椅子を利用する場合は介助者の負担も考えて、段差をなくしフラットにするのがおすすめです。また大きな段差をなくすことで、小さな子どもの転落などの危険もなくなります。
照明や収納に工夫をする
玄関の電気のスイッチは高い場所やドアから離れた場所にあることが多いですが、人感センサーライトにしてスイッチをなくし、立ったり座ったりの動作をなくすことで転倒のリスクを抑えられます。玄関の照明は、内側と外側、両方をセンサーライトにすると、夜間の外出時や帰宅時にとても便利です。
また玄関に靴が散乱していると、車椅子が通りづらかったり転倒の危険があるため片付けのしやすい収納が必要です。余裕を持った大きい靴箱を設置したり、家族玄関を設けることで常に片付いている状態にできます。
バリアフリー住宅づくりのポイント【トイレ編】
トイレは、立ったり座ったりの動作、車椅子の場合は車椅子から便座へ移乗するという動作があります。転倒しないように安全、スムーズに利用できるような設計が必要です。
トイレの扉と便器は平行にする
多目的トイレのように広い空間を設けると、車椅子からの移乗がしやすくなります。介助者も入ることを考えると、幅120cm以上×奥行160cm以上の広さをとることが望ましいとされていますが、一般住宅ではそれほどの面積を確保できないケースがほとんどです。
広さがとれない場合、便器と平行に引き戸を設置するのがおすすめです。トイレに入って前に向かい合う形で便器を設置してしまうと、車椅子から180度反転して便座に座るため移乗が困難です。それに対して便器と戸が平行であれば、便器に車椅子を寄せて横に移動するだけで便座に座ることができるので、移乗が楽になります。
照明の点灯時間を長くする
1日のうちで使用頻度の高いトイレの照明も、人感センサーライトがおすすめです。人感センサーは便利な反面、使用中に消えてしまうこともあります。車椅子の場合や高齢者、身体の状況によってはトイレに要する時間も長くなってしまうので、点灯時間を長く設定しましょう。
バリアフリー住宅づくりのポイント【洗面所編】
洗面所の高さは、人それぞれ使いやすい高さが違います。家族みんなが快適に使えるように、洗面台の高さやボウルの大きさ、洗面スペースの広さを決めましょう。
車椅子用と立って使う用を分ける
洗面台には一般的な立って使うタイプのほかに、多目的トイレのように車椅子でも使えるよう足元に空間が設けられた高さが低いタイプがあります。車椅子のタイプは、イスに座ったまま使用したい方や子どもにも便利ですが、立ったままでは使いづらい高さのため、腰痛の原因にもなります。
家族全員に合うようにするには、洗面台を2種類設置したり昇降式の洗面台を設置するのがおすすめです。
広いスペースと大きめのボウルを選ぶ
洗面所は車椅子で出入りすることを想定して、動きやすいように広いスペースを設け、洗面台の幅も大きくしましょう。また洗面ボウルは小さいと、使用したあとに洗面台周りが水浸しになることがあります。大きくて深さのある洗面ボウルを設置することで水の飛び散りを防ぎ、介護機器なども洗いやすいというメリットも増えます。
バリアフリー住宅づくりのポイント【浴室編】
浴室は滑りやすく、家の中で怪我しやすい場所のひとつです。怪我をしにくい設計にするよう心がけましょう。
浴槽の底と洗い場の高さを合わせる
高齢になると筋肉やバランス機能などの低下により、段差をまたぐ動作は転倒のリスクが高くなります。従来洗い場の床から浴槽の縁までの高さは60cmほどで、安全性から40cmほどが主流にはなってきていますが、段差としては高いため特に気をつけたい場所です。
また、浴槽の底の高さと洗い場の床の高さが違うと、またぐ際にバランスを崩しやすくなるので、できるだけ同じ高さにすることが重要です。腰掛け付きの浴槽も、しゃがむ動作が苦手な高齢者から小さい子どもまで、あるととても便利です。
滑りにくく割れにくい素材を選ぶ
浴室の床は転倒を防ぐために、滑りにくい素材を選びましょう。昔ながらのタイルは滑りやすく、また万が一転倒してぶつかり、割れた破片で怪我をする二次災害を防ぐためにも、床やドアは割れにくい素材を選ぶのが望ましいです。
バリアフリー住宅づくりのポイント【リビング編】
リビングは家の中でも長い時間を過ごす場所であるからこそ、介助が必要な方とその家族全員が快適に過ごせるような工夫が必要です。
小上がりを設ける
段差をできるだけなくすバリアフリー住宅ですが、あえて30~40cmの小上がりを設けることで、車椅子からスライドしやすくちょうどよい腰掛になります。小上がりは畳敷きにして、車椅子の方だけでなく家族全員の休憩や読書、洗濯物をたたんだりするスペースとしても活躍します。
温度差をなくす
高齢になると、温度差によるヒートショックで怪我をすることや、最悪の場合命に危険が及ぶリスクがあります。家の中の温度差をなくすためには、場所ごとの温度差をなくす「温度のバリアフリー化」が大事になります。
そのためには、「高断熱・高気密」は必須で、冷暖房で部屋の温度を調整するのではなく、家全体の温度を一定に保つ全館空調がおすすめです。さらに部屋が孤立し、廊下でつながっている間取りはヒートショックを起こしやすいため、廊下を設けず一体空間になるように設計するとよいでしょう。
バリアフリー住宅づくりのポイント【キッチン編】
キッチンのバリアフリー化は、座ったままでも使いやすいキッチンを目標に考えます。使いやすくするには、設備・機能を使いやすくする工夫とスペースが大事です。
高さや奥行きを使いやすく調整
洗面台と同様にキッチンカウンター下部に足が入るスペースを設けることで、車椅子やイスに座ったままでも使いやすいキッチンになります。下部にスペースをつくるときは、シンクが深いと足にあたってしまったり、手が届きにくくなるため浅いシンクが適切です。カウンターの奥行きも狭くすることで、調理中に手が届かないということを防ぎます。
またキッチンカウンターには、調理をする人に合わせて高さを調整できるものもあります。コストはかかりますが、キッチンの使い勝手が良くなること間違いなしです。
スイッチは手が届く場所に
換気扇などのスイッチは高い場所にあることが多く、手が届かない場合もあり転倒のリスクにもつながります。そのため、換気扇などのスイッチやリモコンは、IHやガスのスイッチの近くで、手の届く場所に集めると移動も少なく使いやすくなります。
バリアフリー住宅づくりのポイント【廊下編】
廊下は家の中で移動する際どこに行くにも通らなくてはいけないため、車椅子でも容易に移動するための工夫が必要です。多く移動する場所だからこそ、廊下には十分な補強も必要になることを考慮しましょう。
廊下幅は手すりも含めて検討する
車椅子で移動する場合、廊下幅は一般的な80cmよりも広くする必要があります。手すりを取り付けることも考慮すると120cmほど設けるのが理想で、旋回分も入れると150cmほど必要です。部屋の広さとの兼ね合いをみて決めましょう。
廊下幅の拡張は部屋の広さにも影響するため新築であれば問題はありませんが、リフォームとなると大掛かりなものとなってしまいます。できるだけ新築時に広めの廊下幅を確保することが望ましいです。また、廊下の壁の手すりが今は必要ないという方は、建築の段階で手すり用の下地を壁に入れておいてもらうことで、必要時にすぐに手すりを付けることができます。
壁やコーナーを補強する
車椅子で家の中を移動していると、どうしても壁や曲がり角にぶつかって傷をつけてしまいます。ぶつけること自体を防ぐのは難しいので、できるだけ傷がつかない方法や傷がつきにくい方法を検討する必要があります。
床から約90cm~120cmまでの壁面下部を守る「腰壁」は、汚れや傷から保護できます。車椅子であれば、クッション性の高い素材を選ぶことでより安心になります。腰壁は、ペットや子どもがいる家庭にも最適です。
バリアフリーの工事費用相場
バリアフリーの工事にかかる費用は一概にいくらとは言えません。どこの箇所をどのように施工するのかによってさまざまです。それぞれの場所をバリアフリーにするのにどれほどの費用がかかるのかを、設備別で紹介します。
【玄関の工事内容と費用】
工事内容 | 費用 |
スロープをつくる | 15万円〜 |
玄関引き戸設置 | 30万円〜 |
手すりの設置 | 12万円〜 |
【洗面脱衣所の工事内容と費用】
工事内容 | 費用 |
車椅子用洗面化粧台の設置 | 20万円〜 |
入口引き戸設置 | 7万円〜 |
手すりの設置 | 2万円〜 |
滑りにくい床材での仕上げ | 4万円〜 |
【浴室の工事内容と費用】
工事内容 | 費用 |
システムバスの設置(段差解消含む) | 90万円〜 |
浴室暖房機の設置 | 10万円〜 |
手すりの設置 | 3.5万円〜 |
【トイレの工事内容と費用】
工事内容 | 費用 |
和式トイレを洋式トイレに変更 | 40万円〜 |
入口引き戸の設置 | 7万円〜 |
手すりの設置 | 4万円〜 |
滑りにくい床材での仕上げ | 4万円〜 |
【廊下と階段の工事内容と費用】
工事内容 | 費用 |
廊下の幅拡張 | 30万円〜 |
手すりの設置 | 10万円〜 |
バリアフリー住宅にする際に利用できる補助金・減税制度
バリアフリー住宅にするにあたり、利用できる補助金や減税制度がいくつかあります。利用できるものがないかぜひチェックしてみてください。
介護保険制度の助成金
富山市には、住宅改修費の支給を申請できる「富山市介護保険居宅介護(介護予防)住宅改修費」というものがあります。
介護保険の認定を受けて要介護または要支援となった方のために、住宅をバリアフリーに改修した場合、限度額20万円(原則1回)の範囲内で費用の7割〜9割を支給してもらえる制度です。
対象者 | 要支援1・2、要介護1~5と認定された在宅生活の方 |
対象の住宅 | 要支援1・2、要介護1~5と認定された方が居住している住宅 |
利用限度額 | 20万円まで |
対象の住宅改修 | ・手すりの取り付け ・段差の解消 ・滑りの防止及び移動の円滑化のための床又は通路面の材料の変更 ・引き戸等への扉の取替え ・洋式便器等への便器の取替え ・その他上記工事に付帯して必要となる工事 |
【詳細】
住宅改修費の支給の申請をしたいとき|富山市公式ウェブサイト (toyama.lg.jp)
自治体からの補助金
自治体によっては、介護保険制度の上限額を超えてしまう工事や、介護保険対象外の工事に利用できる補助金制度があります。それぞれの補助金の最新情報や要件は、下記サイトを確認していただくか、各自治体に確認してみてください。
地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト
減税制度①所得税の控除
個人が所有している居住用家屋について平成26年4月1日から令和5年12月31日までの間にバリアフリー改修工事をした場合において、一定の金額をその年分の所得税額から控除(住宅特定改修特別税額控除)できます。この控除は住宅ローンの利用がなくても適用可能です。
対象者 | マイホームのバリアフリー改修工事を行った方 |
要件 | 以下すべての要件を満たしている方 ・自己が所有する家屋についてバリアフリー改修工事をして、平成26年4月1日から令和5年12月31日までの間に自己の居住の用に供していること ・バリアフリー改修工事の日から6ヵ月以内に居住の用に供していること ・特別控除を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下であること ・工事をした後の住宅の床面積が50㎡以上であり、かつ床面積の1/2以上を専ら自己の居住の用に供していること ・複数の住宅を所有している場合、主として居住の用に認められる住宅 ・バリアフリー改修工事に係る標準的な費用の額が50万円を超えるもの ・工事費用の1/2以上の額が自己の居住用部分の工事費用であること |
【参照】No.1220 バリアフリー改修工事をした場合(住宅特定改修特別税額控除)|国税庁 (nta.go.jp)
減税制度②固定資産税の控除
富山市では「住宅のバリアフリー改修に伴う減額措置」があります。住宅のバリアフリー改修が行われた場合、限度100平方メートル分までで翌年度分の固定資産税が1/3減額されます。固定資産税の減税を受けるための要件は以下をご覧ください。
住宅要件 | ・新築から10年以上経過している住宅 ・改修後の住宅の床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下(平成28年4月1日から令和8年3月31日までに改修した場合に限る) ・居住部分の割合が当該家屋の1/2以上あること(賃貸住宅を除く) |
居住者要件 | いずれかの方が居住していること ・65歳以上の方 ・介護保険法の要介護または要支援の認定を受けている方 ・障害がある方 |
工事要件 | ・いずれかに該当するバリアフリー改修工事であること 廊下の拡幅 階段の設置または階段の勾配の緩和 浴室の改良 トイレの改良 手すりの設置 屋内の段差の解消 ドアの引き戸への取替 床材の滑り止め化 ・工事費が50万円超(自己負担額) ・平成28年4月1日から令和8年3月31日までの間に行われること |
申請書期限 | 資産税課へ工事終了後原則3ヵ月以内に提出 |
【参照】住宅のバリアフリー改修に伴う減額措置|富山市公式ウェブサイト (toyama.lg.jp)
家族みんなが住みやすいバリアフリー住宅にしよう
バリアフリー住宅は高齢者や障がいのある方はもちろん、妊婦さんや赤ちゃんも快適に過ごせる家です。今はまだバリアフリー住宅にする必要はないと思う方も多いかもしれません。
ですが、バリアフリー住宅にしておくことで、今後何十年も家族みんなが安心・安全な暮らしができる住まいになります。新築やリフォームを検討中の方は、ぜひ補助金や減税制度も活用してバリアフリー住宅を建ててみてはいかがでしょうか。