減災とは災害の被害を最小限に抑えるための取り組み・備えのことです。災害による被害を未然に防ごうとする防災と異なり、減災では災害を必ず起こるものと捉え、その被害を抑えることに力を入れます。減災のためにできる7つのこと、自治体の取り組み例などを紹介します。減災の7つの取り組みの中には普段の生活で心がけるべきこと、今すぐできることも多いです。家族や地域で取り組めるものも多いので、早速はじめてみましょう。
減災とは?
減災(げんさい)とは、災害の発生を予防し、その被害を最小限に抑えるための取り組みのことです。減災の目的は、人命の保護や財産の保全、社会の安定を確保することです。
災害そのものを防いだり、災害が起こらない地域を選んで暮らしたりすることはほぼ不可能でしょう。そのため、減災では災害が起きた際の被害を軽減することに重点を置いています。
減災は災害が多い日本でこそ必要な考え方です。日本は地震や水害などの災害が多く、特に地震の回数は全世界の2割を占めています。
それにもかかわらず、災害死傷者数はわずか0.5%。災害が多いからこそ、日本人には防災・減災の意識が強く、その被害を最小限に抑えられているのでしょう。
防災との違い
防災と減災は似たような意味合いを持ちますが、微妙な違いがあります。
防災は、災害が発生する前に予防策や対策を講じることです。たとえば川の氾濫や津波に備えて防波堤や堤防を造ったり、個人レベルであればハザードマップを確認して水害リスクの低い場所に家を建てたりするのが防災にあたります。
防災の基本的な考え方は、災害の被害を可能な限りゼロに近づけることです。
一方、減災は災害が発生してからの対応や被害の軽減策に重点を置いています。災害は必ず起こるものと考え、その被害を最小限に抑えるためにはどうすればいいのか、いざというときにどう行動するのかを考え備えるのが減災です。
つまり、防災は予め備えることで災害そのものを未然に防ぐことを目指し、減災は災害発生後の被害を最小限にすることを目指します。
減災の取り組みでできること
先述の通り日本は災害大国であり、災害による被害を完全に防ぐことはほぼ不可能です。特に地震はいつどこで起こるかがわからず、常日頃から「いざというときの備え」をしておくことが必要です。
災害による被害を最小限に抑える減災のためにできることを7つ紹介します。
- 自助・共助の意識を持つ
- 地域とのつながりを意識する
- 地域のハザードマップを確認する
- 我が家の耐震性を確認する
- 家具を固定する
- 物資を備蓄し、持ち出しの用意をする
- 家族で防災・減災について話し合う
自助・共助の意識を持つ
減災の取り組みの1つ目は「自助・共助の意識を持つ」ことです。
自助とは自分自身の身を守ること、共助とは近隣や地域の人々と協力し合い、困難な状況を乗り越えることを指します。災害発生前から、災害に備えて知識や技術を身につけておくこと、地域の人たちと助け合う習慣をつくっておくことが大切です。
なお、災害時の行政からの援助のことは「公助」といいます。避難所の設置や物資の支援など、行政だからこそできることも多いのは事実ですが、公助の手が届くまでには時間がかかります。
災害時はほんの少しの遅れが命取りとなるため、公助を待つ姿勢でいるのはリスキーです。自助・共助の意識を持つことで、スピーディな動きにつながるでしょう。
地域とのつながりを意識する
減災の取り組みの2つ目は「地域とのつながりを意識する」ことです。
先述の通り、地域のつながり(共助)は災害時において非常に重要です。ただ、普段から交流のない人たちが、災害発生時だけ一致団結するのは難しいでしょう。日頃から地域のつながりを意識し、交流を深めることがいざというときの共助、つまり減災につながります。
地域の防災組織や地域住民との交流を深め、情報共有や支援体制の確立を図りましょう。地域の防災訓練や会議に参加することで、地域全体の防災意識を高められるはずです。
地域のハザードマップを確認する
減災の取り組みの3つ目は「地域のハザードマップを確認する」ことです。
ハザードマップは地域ごとに作成された災害リスクの地図です。国土地理院では、ハザードマップを次のように定義しています。
「ハザードマップ」とは、一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」とされています。防災マップ、被害予測図、被害想定図、アボイド(回避)マップ、リスクマップなどと呼ばれているものもあります。
出典:ハザードマップ | 国土地理院
ハザードマップを作成するためには、その地域の土地の成り立ちや災害の素因となる地形・地盤の特徴、過去の災害履歴、避難場所・避難経路などの防災地理情報が必要となります。
ハザードマップには洪水や土砂災害など、その地域で起こりうる災害の情報が記載されています。いざというときの避難経路や避難場所も確認することができます。
自分の住んでいる地域のハザードマップを確認し、どのような災害が起こり得るのか、どんな災害が起こったときにどこに避難すればいいのかを把握しておきましょう。
家を建てる前であれば、ハザードマップを確認し、災害リスクの低い土地を選ぶのも重要です。
我が家の耐震性を確認する
減災の取り組みの4つ目は「我が家の耐震性を確認する」ことです。
自宅の耐震性について確認したり、不安があるなら耐震診断を受けたりしましょう。耐震診断の結果に応じて、補強のためのリフォームをするのもいいでしょう。
なお、住宅の耐震に関する基準(耐震基準)は法律により定められていますが、この基準は阪神淡路大震災などの災害被害を鑑みて、1981年6月1日に改正されています。改正前(1981年5月31日まで)の基準を「旧耐震」、改正後(1981年6月1日から)の基準を「新耐震」といいます。
旧耐震基準は構造的に地震に弱いこともありますが、築年数的に老朽化も進んでおり、早めに改修・建て替えをするのが好ましいでしょう。
新耐震基準の建物は震度6強~7レベルの地震でも倒壊しないように設計されていますが、あくまでも「倒壊しない」というだけです。その後の補修や減災のことを考えるなら、「耐震等級」にも注目しておきたいです。
耐震等級 | 耐震性 |
---|---|
耐震等級1 | 建築基準法で定められた基準を満たしている。 阪神淡路大震災クラスの揺れにも耐えられる程度の強さはあるが、震災後に住み続けるのは難しい。 |
耐震等級2 | 耐震等級1の1.25倍の強さで、長期優良住宅の認定基準。 阪神淡路大震災クラスの揺れに耐え、地震後も補修すればまた住めるくらいの強度。 |
耐震等級3 | 耐震等級1の1.5倍の強さ。 阪神淡路大震災クラスの地震が起こっても、軽い補修でまた住めるくらいの強度。 |
もちろん、耐震等級が高くなるほど施工費も高くなります。ただ、いざというときの経済的リスク(補修費)も考えると、できれば耐震等級3、最低でも耐震等級2の家を建てたいです。
家具を固定する
減災の取り組みの5つ目は「家具を固定する」ことです。
地震時には家具が転倒し、けがをする危険性があります。特に背の高い家具や重い家具は倒壊による危険が大きく、二次被害につながりやすいです。
家具を壁や床、天井などに固定することで、地震による家具の転倒を防止しましょう。具体的には、次のような方法があります。
- 家具を壁や床にアンカーボルトやL型金具で固定する
- 天井に突っ張り棒で固定する
- 倒壊防止のマットを敷く など
物資を備蓄し、持ち出しの用意をする
減災の取り組みの6つ目は「物資を備蓄し、持ち出しの用意をする」ことです。
災害時には交通機関がストップしたり、物資の供給が滞ったりする場合があります。非常食や飲料水、防寒具、懐中電灯などの必要な物資を備蓄し、いざというときに備えましょう。
また、緊急時にスムーズに持ち出せることも大切です。これらの備蓄品・防災グッズはまとめて一ヵ所に置いておくこと、水や食料、懐中電灯などの最低限必要な荷物を1つのリュックにまとめておくことを忘れないようにしましょう。
荷物の種類 | 備考・量 |
---|---|
保存食 | 米や缶詰、漬物など保存がきくものを中心に7日分 ※栄養バランスも考えて用意 |
飲料水 | 一人1日3リットル×7日分 |
衛生用品 | ウェットティッシュやトイレットペーパー、歯磨きセットや生理用品 |
医薬品 | 常備薬や風邪薬、痛み止め、応急処置グッズも忘れずに |
貴重品 | 災害時すぐに持ち出せるよう、保険証や免許証などのID、現金などは1つの財布にまとめておく |
ライトと電池 | できれば手回し式の懐中電灯を用意 ※スマホは明かりが弱く、情報収集にも使うためライトとして考えないこと |
情報収集ツール | スマホや防災ラジオ。 AM放送とFA放送が聞けるもの、手回し充電器がついたものが便利 |
100円玉、10円玉中心の現金 | 主に公衆電話を使用するための小銭 |
季節用品 | 夏なら塩分補給グッズや虫除けスプレー、汗拭きシートなど 冬なら防寒着や使い捨てカイロ、長靴など |
便利グッズ | 軍手や耳栓、大小のビニール袋など |
これらの防災・減災グッズについて、詳しくはこちらの記事で解説しています。
家族で防災・減災について話し合う
減災の取り組みの7つ目は「家族で防災・減災について話し合う」ことです。
災害時には家族が分散する場合もあります。いざというときにどのような行動を取るか、連絡手段は何か、避難場所はどこかなど、家族で意思疎通を図りましょう。また、避難訓練を定期的に行うことで、避難の手順やルートを確認することも大切です。
学校や職場などの災害時の対応についても確認しておくのもいいでしょう。
減災の取り組みに積極的な自治体の事例
減災の取り組みに積極的な自治体として、たとえば富山市では2022年10月8日に「富山市総合防災訓練」を実施。実際の災害を想定したリアルな訓練でした。
これは大規模地震を想定した訓練で、「婦中スポーツプラザ」と「鵜坂小学校」の2会場で行われました。倒壊建物救助訓練では、地震により倒壊した建物内に逃げ遅れた人がいると想定し、ドローンを使った情報収集や人命救助を行いました。
ほかにも水道管の破損を想定して排水管の切断や接続などの修理をしたり、ヘリコプターで孤立者を吊り上げ救助したり、訓練の内容は実践的なものばかりでした。
参加したのは約40の関係機関で、地域住民と合わせて700名が訓練に取り組みました。楽しみながら防災に触れることができるようにと設置された「はしご車乗車体験コーナー」では、多くの子どもたちが興味津々な表情で参加。防災への関心が高まったことがうかがえる取り組みでした。
訓練の様子や学びなどは、Twitter上の「防災スイッチON!とやま公式アカウント」アカウントからも発信しています。防災に関する情報も定期的に発信しているので、ぜひご確認ください。
いつ起きるかわからない災害に備えて減災を
いつ起きるかわからない災害に対して、減災の取り組みをすることは大切です。
減災に積極的に取り組むことで、災害による被害を最小限に抑えられるのはもちろん、地域全体の復興や再建も早くなるでしょう。地域住民が自助・共助の意識を持つようになれば、地域の活性化やより良い街づくりにもつながります。
日頃から自助・共助の意識を持ち、地域との連携を図りながら、減災の取り組みを進めましょう。