みなさん「病院食」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?
私は「味が薄い」「冷めている」という印象を持っていました。「体には良さそうだけど、食べたいものが食べられないのはつらそう」と感じる人も多いのではないでしょうか。
ところが今回、富山県立中央病院の栄養管理科を取材し、そのイメージが大きく変わりました。
「病気を治すために仕方なく食べるのではなく、食事を入院中の楽しみにしてほしい。おいしく食べて、早く元気になってほしい」
そんな思いが込められた、知られざる病院食の舞台裏について、管理栄養士の中村さんと、調理現場の責任者・竹田さんにお話を伺いました。
毎日約1,200食!一人ひとりにあわせた栄養サポート
富山県立中央病院では、朝・昼・夕あわせてなんと約1,200食もの食事を、管理栄養士・栄養士15名と約75名の調理スタッフで毎日用意しています。
さらに、入院している患者さん一人ひとりの病状や状態にあわせて、さまざまな食事を用意する必要があるんです。
では一体どれだけの種類があると思いますか?

基本の献立は、病態にあわせて約40種類、さらに、アレルギーやかむ・飲み込む力に合わせて調整するため、多い時にはなんと約140通りの食事を用意するそうです。


中村さんは「どんなに栄養管理をしても、患者さんが食べ残してしまっては意味がない」と話します。

中村さん:「早く元気になるために、まずは一口でもいいから食べていただくことが一番大事です。塩分制限が必要でも、味が薄すぎて全く喉を通らないなら、主治医の先生に少し制限を緩めませんかと、直接相談に行くこともあるんですよ。」
病院食は徹底的に制限されると思っていたので、おいしく食べられるように、管理栄養士さんが直接先生に相談しながらその人に合った方法を考えていることに驚きました。


中村さんはこんな素敵なエピソードも話してくれました。
中村さん:「以前、食べることに不安のある女の子の食事のサポートに関わった際、その子が『将来栄養士になりたい!』と言ってくれたことがとても心に残っています。誰かの人生にそんな形で関わることができたと思うと、とてもうれしかったです。」
きっと患者さんの気持ちに寄り添う中村さんを見て、憧れを抱いたんですね。
病気を治すための徹底した管理も大切ですが、中村さんたち管理栄養士は一人ひとりの患者さんの気持ちに寄り添って、『食』を通して治療に関わっているのだという想いが伝わってきました。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たく!おいしさ引き出す温度の管理
たくさんの献立を、おいしい一皿へ仕上げるのが、調理現場の責任者である竹田さんと調理スタッフです。おいしく食べてもらうために、特に「温度」にこだわっていると言います。

竹田さん:「患者さんに届ける食事は配膳時間直前に仕上げ、調理後は徹底した温度管理を行っています。調理後すぐに温蔵庫・冷蔵庫へ入れ、配膳も保温・保冷が同時にできる配膳車を使うことで、料理ごとに最適な温度で提供しているんです。また、温度管理の徹底は食中毒を防ぐことにもつながります。」

実際に、食事の制限がない患者さん向けの常菜食を試食させていただきました。この日のメニューは、魚とエビのフライやポテトサラダなどでした。
運ばれてくると同時に温かい料理から漂ういい匂いは思わずおなかが鳴ってしまうほど。エビフライは衣がサックサク。温かさと香ばしさがしっかり感じられ、そのおいしさに驚きました。ポテトサラダはひんやりとして、添えられたトマトをフライの後に食べると口の中がさっぱり。まるで定食を食べているかのようにおいしく完食しました。
私の病院食へのネガティブなイメージは完全に覆りました。


おいしさの裏にある、徹底された管理に支えられる安全
ただおいしい料理を提供するだけじゃなく、安全管理も病院食を提供するうえでとても重要です。
大量調理をする中で、アレルギーやかむ・飲み込む力が低下している患者さんに、間違った食事を提供してしまうと、命に係わる重大な事故につながる可能性があります。

そこで、トレーの色分け、調理指示書や食札による確認、最終段階でのダブルチェックを行い、提供間違いの防止を徹底しています。


竹田さん:「患者さんに安心して食べてもらうために、「取り違えをしない」「食中毒を起こさない」ということは、当たり前と思われるかもしれませんが、1日3食の食事を365日休みなしで提供する中で、その当たり前を継続することはとても大変なことなんです。」
そう語る竹田さんからは患者さんに安全な食事を届ける、強い責任感が伝わってきました。
選べる楽しさ!好きなメニューを選んで毎日わくわく
富山県立中央病院の食事は、ただ出てくるものを食べるだけじゃないんです。
毎日の食事が楽しくなるよう、選択食を取り入れています。
朝食も昼食も。毎日の食事に「選ぶ楽しみ」を
患者さんの病状にもよりますが、朝食は「和食」か「洋食」を毎日選択でき、お昼ごはんも週に3回、メインを「お肉」か「お魚」か選べます。

「どっちにしようかな」と選ぶワクワクがあるだけで、毎日の食事が待ち遠しい時間に変わりますよね。
複数のメニューを用意するには手間がかかります。それでも患者さんに毎日の食事を楽しんでもらい、回復への意欲につなげたいという思いが感じられます。
お祝いの特別な一皿にも、選べるうれしさ
選べるのは通常のごはんだけではありません。
頑張って出産を終えたお母さんに提供される「出産お祝い膳」でも、メインの料理を選択できるんです。


平成30年の提供開始から現在まで、アンケートをもとに2度リニューアルを行っており、ケーキも食べられるようになってうれしい!という声もあるほど、お母さんたちからの評判も上々なんだそうです。
今後も地元の豊かな食材にこだわったラインナップへのさらなるリニューアルも検討されているそうなので、これからの進化に目が離せません。
退院後も安心!「見てわかる」栄養指導で食生活をサポート

毎日のごはんだけでなく、退院後の食事指導にも力を入れています。ラーメンの塩分量を可視化したモデルや、ジュースに含まれる砂糖を示す教材などを使い、自宅での食事管理を具体的にイメージできるよう工夫しています。

薬の副作用による味覚障害や、かんだり飲み込んだりする力が低下している方向けの調理法もパンフレットなどで詳しく紹介されています。
さらに、自炊が難しい方向けに地域の配食サービスを紹介するなど、退院に向けたサポートも手厚いので心強いですね。

心まで満たされるごはん。それを支える栄養管理科のやさしさ

栄養管理科は「おいしく食べて、早く元気に」という言葉をモットーに給食・栄養管理を行っています。
それは、決して単なるスローガンではありません。
毎日決まった時間に、病態やアレルギーなどに応じた安心・安全なごはんを届けるのはもちろんのこと、おいしく食べてもらうということも治療の一環なんだと取材を通して強く感じました。
不安と共に過ごす入院生活の中で、見えないところでやさしく患者さんを支えている。そんな富山県立中央病院の栄養管理科は、今日もおいしいごはんで患者さんの心と体を満たしています。
| 施設名 | 富山県立中央病院 |
| 住所 | 富山県富山市西長江2丁目2番78号 |
| 公式サイト | https://www.tch.pref.toyama.jp/ |
| 初診受付 | 地域連携予約ありの場合/午前8時30分〜午前11時00分 地域連携予約なしの場合/午前9時00分〜午前11時00分 |
| 再診受付 | 予約ありの場合/午前7時30分〜予約時間まで 予約なしの場合/午前9時00分〜午前11時00分 |
| 休診日 | 土・日・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日) ※ゴールデンウィーク、お盆等の平日は通常どおり |