犬にみられる代表的な感染症

犬も、人間や他の動物と同じように、さまざまな感染症にかかる可能性があります。感染症とは、ウイルスや細菌、カビ、寄生虫などの病原体が体内に入り込むことで発症し、他の動物にうつることもある病気です。
細菌やカビ、寄生虫が原因の場合は、多くの場合治療薬があるため適切な処置で治療ができます。一方、ウイルスによる感染症は犬専用の治療薬が存在しないことから、かからないための予防が非常に重要です。
犬がかかる可能性のある代表的な感染症を、8つ紹介します。
狂犬病
狂犬病は、犬に限らず、すべての哺乳類に感染する致死性のウイルス性感染症です。日本では1957年以降、狂犬病の発生は報告されていませんが、過去に1970年と2006年には海外からの帰国者が狂犬病を発症しました。また、2020年にはフィリピンから来た入国者の感染事例もあります。
狂犬病の主な感染源は犬ですが、猫やサル、オオカミ、アライグマ、ジャッカル、キツネ、げっ歯類、コウモリなども感染する可能性があります。犬が感染する場合、発病動物に噛まれることでウイルスが傷口から侵入し、末梢神経を経由して中枢神経系に広がり、最終的には唾液腺に増殖します。
狂犬病の症状は潜伏期間の後、約1〜2ヶ月で現れますが、潜伏期間は一般的に1〜3ヶ月、ウイルスの経路や量によっては1週間から1年までと、個体差があります。
狂犬病の初期症状には、発熱や倦怠感、頭痛、筋肉痛、嘔吐など風邪に似た症状が現れます。病状が進んだ中枢神経症状では、興奮(異常行動)、不安、錯乱、水や風を恐れて筋肉がけいれんする怖水症や怖風症などの症状が特徴です。
その後、全身の麻痺が進行し、最終的には昏睡状態になり、呼吸が麻痺し死に至ります。治療法はなく、ほぼ100%死亡するといわれている感染症です。
犬レプトスピラ感染症
犬のレプトスピラ症は、「レプトスピラ」という細菌が原因で発症する感染症です。主に腎臓や肝臓に影響を与え、犬だけでなく人にも感染することがあります。自然に治る場合もある一方、重症化すると肝不全や腎不全を引き起こし、命に関わる場合もあります。
犬がレプトスピラ症に感染する主な原因は、ネズミや野生動物などの保菌動物の尿に触れることです。これらの動物が排出した尿やそれが含まれる水、または汚染された土と接触することで、細菌が体内に入り込みます。
また、皮膚の傷口から細菌が感染することもあるため、川遊びやキャンプ場などでは特に注意が必要といえるでしょう。
犬ジステンパー
犬ジステンパーは、犬の中枢神経系・呼吸器系・消化器系に深刻な影響を与える感染症です。特に子犬や免疫力が低下している犬にとっては重症化しやすく、命に関わる可能性もあるため注意が必要です。
この感染症にかかると、発熱や咳、鼻水、食欲不振、下痢、嘔吐など、さまざまな症状が現れます。病状が進むと、けいれんやふらつき、歩行の不安定さなどの神経症状が現れることもあり、症状の幅広さが特徴です。一度発症すると回復に時間がかかるほか、後遺症が残ることもあります。
犬ジステンパーには特効薬がないため、二次感染を防ぐための抗生剤投与や、脱水に対しては点滴による水分補給など、症状を緩和するケアで対応します。神経症状が出ている場合には、抗けいれん薬が投与されることもある感染症です。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
犬パラインフルエンザウイルス(CPIV)は、ウイルス性の呼吸器感染症です。一般的には「犬ケンネルコフ」や「犬風邪」とも呼ばれており、主に咳や鼻水、熱など風邪に似た症状がみられます。
症状が軽度の場合もありますが、他のウイルスや細菌との混合感染が起こると、呼吸困難や重度の肺炎に進行するリスクが高くなります。
犬パラインフルエンザウイルス感染症の治療に特効薬はなく、主に対症療法が行われます。点滴による体調の管理や、咳止めを使用して咳による体力消耗を抑えることが一般的です。また、細菌感染が同時に起こった場合には抗生剤が使用されることもあります。
犬パルボウイルス感染症
犬パルボウイルス感染症は、「パルボウイルス」というウイルスが原因で発症する感染症です。発症の仕方によって、生後8週齢までの子犬に見られることが多い「心筋炎型」と、生後8週齢以降の子犬に多い「腸炎型」に分けられます。
感染すると、食欲の低下や嘔吐、下痢など、急性の消化器症状が現れるのが特徴です。犬パルボウイルス感染症は、ウイルスに汚染された便や環境に接触して広がることが多い感染症です。
犬伝染性肝炎
犬伝染性肝炎は、「犬アデノウイルス1型(CAV-1)」によって引き起こされる感染症です。この感染症は発熱や食欲不振、嘔吐などの初期症状が見られ、進行するにつれて、より深刻な症状が現れます。
特に肝臓の機能が損なわれることで、黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる)、腹水(お腹に水がたまる状態)、出血傾向などが現れ、症状が進むと神経系にも影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。重症化すると目にも異常が現れ、角膜が青白く濁る、ブルーアイが確認されることもあります。
犬伝染性肝炎には特効薬がないため、治療は主に対症療法を中心に行います。二次感染を防ぐための抗生物質の投与や、脱水管理のための点滴、出血傾向が見られる場合には止血剤やビタミンKが投与されることもあります。重篤な状態になると、入院して集中的な治療が必要になる可能性もある感染症です。
犬コロナウイルス感染症
犬コロナウイルス感染症は、「犬コロナウイルス」というウイルスによって引き起こされる感染症で、主に消化器に影響を与えます。特に成犬では感染しても症状が現れない「不顕性感染」が多く、発症しないままウイルスを保有しているケースもあります。
子犬が感染した場合には、嘔吐や下痢など消化器系の症状が見られることがあります。しかし、通常は軽症で済み、重篤化することは多くありません。しかし、パルボウイルスや寄生虫、細菌など他の感染症と同時にかかってしまうと、症状が重くなる可能性があるため注意が必要です。
犬コロナウイルス感染症の主な原因は、感染している犬の便に含まれるウイルスを、他の犬が口にしてしまうことです。犬コロナウイルスは病原性自体それほど強くないものの、感染力が高いため、多くの犬が集まる繁殖施設や保護施設、ペットショップなどでは感染が広がりやすいといえるでしょう。
犬アデノウイルス2型感染症
犬アデノウイルス2型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)は、犬の呼吸器に影響を与える感染症です。特に、犬の上部気道に炎症を引き起こします。
この感染症は「ケンネルコフ」とも呼ばれ、犬の風邪として知られています。感染力は強いものの、一般的には致命的な病気ではなく、適切な環境管理とケアで回復が見込まれます。
犬アデノウイルス2型感染症の主な症状は、犬の咳き込みや、喉の不調が多くあります。風邪のような症状が多いですが、軽度であれば特別な治療を必要とせず、自然に回復します。しかし、症状が重くなることもあるため注意が必要です。
治療法は主に対症療法で、特効薬はありません。感染によって引き起こされる呼吸器症状に対して抗生物質を使用することがあり、場合によっては抗炎症剤や吸入療法が行われることもあります。
感染症にかからないために必要な4つの予防

犬の感染症を予防する、4つの予防法について紹介します。
1.狂犬病ワクチン接種
日本では犬を飼う場合、狂犬病予防のワクチン接種が法律で義務付けられています。犬を飼い始めてから30日以内(子犬は生後91日から30日以内)に、ワクチン接種と犬の登録が必要です。初回の注射以降は、年に1回ワクチン接種を受けなければなりません。
原則として、毎年「狂犬病予防注射期間」に指定されている、4月1日から6月30日までにワクチン接種をします。動物病院のほか、狂犬病予防注射期間に多くの自治体で実施される集団接種でも接種可能です。忘れずに毎年接種を受けることで、愛犬と周囲の安全と健康を守ることにつながります。
2.混合ワクチン接種
混合ワクチンは、犬がかかりやすく重症化しやすい感染症を、まとめて予防できるようにつくられた予防接種です。1回の接種で複数の感染症に対する免疫を同時に得られます。
予防対象となる感染症の数に応じて2種〜10種の混合ワクチンがあり、内容はワクチンによって異なります。混合ワクチンについては、以下の記事でもくわしく紹介しているため、興味がある方はチェックしてみてください。
5月の混合ワクチン記事の内部リンクを貼る
3.フィラリア予防
フィラリア症は「フィラリア」という寄生虫が原因で起こる感染症で、感染した蚊に刺されることで犬や猫に感染します。主に心臓や肺の血管に寄生し、重症化すると命にかかわることもある非常に危険な病気です。
予防方法としては、月に一度の投薬による予防が一般的ですが、1回の注射で1年間効果が続くタイプもあります。しかし、すでにフィラリアに感染している状態で予防薬を使うと、副作用が起こるリスクがあります。そのため、投薬を始める前には血液検査(抗原検査)で感染の有無を確認することが必要です。
4.ノミ・マダニ予防
ノミやマダニは、主に屋外の動物や植物に付着して生息しており、犬や猫に寄生することでさまざまな健康被害を引き起こします。
ノミやマダニの対策として、もっとも効果が期待できるのは、専用の駆虫薬を使用して体表に寄生した虫を駆除する方法です。現在では、背中に垂らす「スポットオンタイプ」、スプレーで全身に散布するタイプ、飲んで効く「経口タイプ」など、さまざまな製品が市販されています。これらの薬は、一般的に月に一度の投与が基本です。
ただし、ノミの場合、犬自身の駆除ができても過ごしている場所にノミが生息していては、駆除の終わりがありません。そのため、散歩の後にノミを家に入れないことや、ペットの寝床や部屋、生活環境も合わせてしっかり掃除しましょう。
なお、ワクチン接種の必要性や間隔については犬ごとに異なります。ワクチン接種を検討している場合は、かかりつけの医師に相談することが重要です。
予防を徹底して犬を感染症から守ろう
今回は、犬がかかる代表的な感染症の種類と、予防策について紹介しました。
犬の健康を守るためには、日頃からの予防が何よりも大切です。感染症は一度感染すると重症化するリスクがありますが、定期的なワクチン接種や予防薬の投与で予防できます。
外出や季節の変化に応じて予防を徹底し、犬も飼い主も安心して健やかに過ごせる環境を整えましょう。