犬に混合ワクチンが必要な理由

犬に混合ワクチンが必要な理由は、身の回りにあるさまざまな病原体から命を守るためです。特に抵抗力の弱い子犬や高齢犬は、感染による重症化リスクが高いため、あらかじめワクチンで免疫をつけておくことが重要といえるでしょう。
また、散歩やドッグラン、トリミングなどで他の犬と接する機会がある場合は、さらに感染の危険性が高まります。犬だけでなく、人にうつる可能性がある病気(人獣共通感染症)もあるため、集団感染を防ぐためにも混合ワクチンの接種が推奨されています。
事前に混合ワクチンを接種することで、感染後の高額な治療費を予防できることもメリットといえるでしょう。
犬の混合ワクチンの種類

犬の混合ワクチンは、1回の接種で複数の感染症を予防できる効率的な方法です。犬への負担を減らしつつ、健康を守るために広く活用されています。
混合ワクチンは、すべての犬に必要とされる「コアワクチン」と、生活環境や地域によって必要性が異なる「ノンコアワクチン」の組み合わせで構成されています。種類は、2種から最大11種まで存在します。
予防できる感染症について、2種混合は、犬ジステンパーウイルス・犬パルボウイルス、3種混合では犬ジステンバーウイルス・犬伝染性肝炎・犬アデノウイルス2型、4種混合では、3種混合に犬パラインフルエンザウイルスが追加、5種混合ではさらに犬パルボウイルスが加わり、6種ではさらに犬コロナウイルスが加わります。
さらに、7種以上の混合ワクチンでは、人にも感染する可能性があるレプトスピラ症の2種が含まれるなど、ワクチンの種類が増えるごとに予防できる病気の範囲が広がります。そして、9種以上は、レプトスピラの血清型が追加されます。
一般的な住宅街で暮らす室内犬には、4種すべてのコアワクチンに加え、感染力の強い犬パラインフルエンザにも対応した5種混合ワクチンが多く選ばれています。一方で、普段の散歩コースに川辺や池、湿地、山林など、野ネズミが生息しやすい場所が含まれている場合は、レプトスピラ症の感染リスクが高まります。そのため、より多くの病気に対応できる7種混合ワクチンの接種を選ぶと安心です。
犬の混合ワクチンは、住んでいる環境や年齢によって適切な種類が変わります。かかりつけの獣医師と相談しながら、それぞれの犬に合った混合ワクチンを選びましょう。
混合ワクチン接種のタイミングと間隔は?
犬の混合ワクチンは、健康状態や成長に合わせて適切な時期と間隔で接種することが重要です。
生まれたばかりの子犬は、母犬の初乳から得られる「移行抗体」によって感染症から守られていますが、この抗体は時間の経過とともに消えていきます。移行抗体が体内に残っているとワクチンの効果が十分に発揮されないため、子犬のワクチン接種は通常、生後6〜8週齢から始め、16週齢を過ぎるまで2〜4週間隔で数回に分けて接種することが推奨されています。
その後、生後6か月または1歳頃に追加接種を行い、以降は基本的に年1回の追加接種が一般的です。とくに、日本ではコアワクチンとノンコアワクチンの混合が多いため、毎年の接種が基本です。
しかし、犬の体調や生活環境に応じて接種間隔の調整、抗体検査によって接種の必要性を判断することもあります。
混合ワクチンで予防できる感染症

犬の混合ワクチンによって予防できる感染症はどのような病気なのか、くわしく紹介します。
犬ジステンパーウイルス感染症
感染している犬の鼻水や唾液、血液、尿からうつる感染力の強い病気です。発熱や咳などの呼吸器症状のほか、下痢などの消化器症状がみられます。重症化すると、けいれんや麻痺などの神経症状が起き、後遺症や死亡のリスクもある感染症です。
特効薬はなく、現れている症状に合わせた投薬や点滴などの対症療法が一般的です。特に子犬は致死率が高いため、あらかじめ混合ワクチンなどで予防することが重要です。
犬パルボウイルス感染症
便や嘔吐物などを通じて感染し、激しい嘔吐や血便、急速な脱水症状を引き起こす感染症です。特に、子犬や免疫力の低い犬は急激な状態の悪化が見られることがあるでしょう。
有効な治療薬はなく、症状によって、吐き気止めや抗生剤の投薬、脱水症状を改善する点滴などによる対症療法が中心です。
犬伝染性肝炎
尿や唾液、便から感染し、肝臓に炎症を起こします。重症になると出血傾向や神経症状が現れ、急激に状態が悪化することがあります。
根本的な治療法はなく、点滴や輸血などで症状を和らげながら回復を待ちます。回復後、一時的に「ブルーアイ」と呼ばれる目の濁りが出ることがありますが、自然に回復します。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
他のウイルスや細菌との混合感染により、重症化する傾向がある感染症です。咳やくしゃみ、鼻水などの呼吸器症状を引き起こします。ドッグランやペットホテル、動物病院など、集団生活の犬によく見られる呼吸器系の病気「ケンネルコフ」として、集団感染を起こす原因にもなります。
ウイルス自体に効果のある薬はないため、二次感染や重症化を防ぐための抗菌薬の投与や、呼吸器症状にはネブライザー(吸入)による対症療法を行います。
犬アデノウイルス2型感染症
飛沫や接触を通じて感染し、喉や気管に炎症を引き起こします。犬パラインフルエンザウイルス感染症と同じく、「ケンネルコフ」の一因です。発熱、咳や鼻水などのかぜ症状が特徴で、重症化すると肺炎になることもあります。
治療法も犬パラインフルエンザウイルス感染症と同様で、抗菌薬の投与やネブライザー(吸入)などで、症状を抑える対症療法が行われます。
犬コロナウイルス感染症
便を介して感染し、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こします。特に子犬は症状が悪化しやすく、パルボウイルスとの混合感染にも注意が必要です。
整腸剤の投与や点滴などの支持療法(治療による副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするためのケア)が行われます。
犬レプトスピラ感染症
ネズミやリスなど、ネズミ目に属するげっ歯類の尿などから汚染された水や土を介して感染し、人にも感染する「人獣共通感染症」です。発熱や黄疸、腎障害などの症状があり、重症例では命に関わることもあります。
感染初期であれば、抗生剤の投与によって回復が見込まれます。重症化した場合は、入院や集中治療が必要なこともあるでしょう。
犬の混合ワクチンの副反応

混合ワクチンは、感染症から愛犬を守るためにとても重要ですが、接種後に副反応が出ることがあります。特に注意が必要なのは、「アナフィラキシー反応」と呼ばれる急性のアレルギー反応です。
混合ワクチン接種から1時間以内に犬がぐったりする、舌や歯ぐきが紫がかる(チアノーゼ)、呼吸が苦しそうになるなどの症状が見られた場合は、すぐに動物病院での対応が必要です。
また、混合ワクチン接種後数時間から数日以内に現れる副反応としては、顔の腫れ、嘔吐、下痢、皮膚のかゆみ、元気がなくなるなどがあります。比較的軽度のケースが多いものの、症状によっては治療が必要なこともあるため、気になることがあった際はかかりつけの医者に相談してください。
また、混合ワクチンの接種は「犬の体調が良い日」かつ「午前中」に接種するのがおすすめです。これは、混合ワクチンを受けた後にできるだけ一日中安静に過ごし、体調の変化にいち早く気づけるようにするためです。
混合ワクチンの正しい接種で犬の健康を守ろう
今回は、犬の混合ワクチンが必要な理由、混合ワクチンの種類、摂取するタイミングと間隔、混合ワクチンで予防できる感染症などについて紹介しました。
犬の混合ワクチンは犬が健康に過ごすために重要である一方、接種のタイミングや適切な種類を選ぶことが重要なポイントです。
犬の混合ワクチン接種を考えている方は、必ずかかりつけの病院に相談しながら犬の健康を守りましょう。