「お産の痛み、少しでも楽になれば…」そう考えたことのある方は多いのではないでしょうか。近年、出産時の痛みを和らげる方法として「無痛分娩」への関心が高まっています。富山県内でも、この無痛分娩を提供する医療機関が増えてきました。

2025年7月から無痛分娩を開始した富山県立中央病院は、地域の周産期医療を支える重要な拠点です。今回は、同院の産婦人科医である中垣成子先生をはじめ、麻酔科医、助産師の方々に、無痛分娩のメリットや知っておきたいことについてお話を伺いました。
今回お話をうかがったのは🩺
富山県立中央病院
(左) 産科病棟 師長 助産師 山岸 久枝 先生
(中央) 麻酔科医 長岡 治美 先生
(右) 産婦人科医 中垣 成子 先生
そもそも「無痛分娩」とは?
━ 無痛分娩とは、医学的にどのような分娩方法なのでしょうか?
主に「硬膜外麻酔(こうまくがいますい)」という麻酔を用いて、陣痛の痛みを和らげながら行うお産の方法です。
目的は、完全に痛みをゼロにすることではありません。陣痛の痛みを軽減し、和らげることで、お母さんが落ち着いて、より安全にお産に臨めるようにサポートすることを目指しています。

━ 「和痛分娩(わつうぶんべん)」という言葉も聞きますが、違いはありますか?
厳密な違いはないんです。当院でも、痛みを「和らげる」という「和痛」の観点で実施しています。
痛みが完全になくなると、陣痛の感覚や赤ちゃんを産むために「いきむ」タイミングが分からなくなってしまうことがあります。赤ちゃんを産むためには、子宮の収縮だけでなく、お母さん自身がいきむ力も大切になる場面があるため、その感覚は残しつつ、産後の体の負担や疲労を少しでも軽くすることが大きな目的です。

麻酔の注射は痛い?気になる処置について
━ 背中にカテーテルを入れると聞くと、心配です。
不安に感じるのは当然のことです。まず、歯医者さんの治療と同じように「局所麻酔」を行います。この最初の注射がチクッとしますが、痛みを感じるのはその数秒間だけです。
局所麻酔が効いた後は、硬膜外麻酔のための針を入れても痛みはほとんどありません。見えない場所への処置で不安も大きいと思いますが、少しでも不安が和らぐように丁寧な声かけを心がけています。

高まる無痛分娩のニーズと富山県の現状
━ なぜ中央病院で無痛分娩を始められたのですか?
全国的に無痛分娩を希望される方が増えてきているという背景があります。ここ数年は新型コロナウイルスへの対応もありましたが、状況が落ち着いてきたことから、2025年の7月より当院でも開始しました。
━ 現在は経産婦(出産経験のある方)のみが対象とのことですが、理由は何ですか?
経産婦さんのお産は、初めての方(初産婦さん)に比べてお産の進み具合を予測しやすいという点があります。
当院も無痛分娩を開始して間もないため、何よりも「安全」を第一に考え、まずは経産婦さんを対象としています。今後、体制を整えながら順次対象を拡大していく予定です。
━ 全国的に無痛分娩への関心が高まっているのはなぜでしょうか?
実際に経験された方の口コミや、SNSでの情報発信が広がったことが大きいと思います。一方で、富山県を含む日本海側は、まだ普及が進んでいないのが現状です。
これには、産婦人科医や麻酔科医の人員が都市部に比べて少ないという医療体制の課題や、「痛みに耐えてこそ母親」といった昔ながらの考え方が根強く残っている文化的背景も関係しているかもしれません。

体への負担軽減だけじゃない!知っておきたいメリットや副作用
━ 無痛分娩のメリットを教えてください。
一番のメリットは、陣痛の強い痛みが軽減されることで、お産に伴う体力の消耗や疲労感が少なくなる点です。その結果、「産後の回復が早かった」と感じる方が多いです。

もちろん痛みの感じ方には個人差がありますが、落ち着いて出産に臨めるため、陣痛中でも談笑されたり、携帯電話を操作されたりする余裕がある方もいらっしゃいます。
━ 逆に、副作用はありますか?
適切に管理された無痛分娩であれば、母子への大きな影響は少ないとされています。報告のある副作用として、お母さんの血圧が少し下がったり、頭痛や吐き気が起きたりすることがあります。また、分娩が少し長引く可能性も指摘されています。
私たちは、麻酔薬の量やお母さんの血圧などを常に細かくチェックし、赤ちゃんの心拍モニターで「元気だよ」というサインをしっかり確認しながら、安全第一でお産を進めていきますのでご安心ください。
無痛分娩を受けられないケースとは
━ 誰でも無痛分娩を受けられるわけではないのですか?
はい。すべての方が無痛分娩に適しているわけではありません。母子の安全を確保するため、必ず医師が医学的に判断します。例えば、以下のような場合は難しいことがあります。
・背骨に異常がある方
・血が止まりにくい体質の方
・極度の肥満の方
麻酔は背骨の近くに針を刺すため、出血が止まりにくいと神経に影響を及ぼすリスクが高まります。安全を最優先するため、当院の基準は厳しいかもしれませんが、無理に行うことはありません。

計画的に進めるお産。当日の流れと費用について
━ いつ頃、無痛分娩を受けられるか分かりますか?
当院では、妊娠35週頃に血液検査などを行い、36週の妊婦健診で麻酔科の医師が診察し、最終的な判断をしています。

━出産の流れを教えてください
基本的には「計画分娩」となり、あらかじめ入院日を決めて行います。
前日に入院していただき、当日の朝から分娩を誘発する処置を開始します。規則的な陣痛が始まり、痛みが強くなってきた段階で、麻酔科の医師が硬膜外麻酔の処置を行います。
━ 費用はどのくらいかかりますか?
無痛分娩は健康保険の適用外で、自費診療となります。
費用は、出産された時間帯や曜日(平日、土日祝、深夜など)によって異なり、通常の分娩費用に加えて約15万円程の追加費用がかかります。
医師からのメッセージ🩺
無痛分娩は、あくまで出産の選択肢の一つです。
分娩の方法によって、その後の赤ちゃんへの愛情の深さが変わることは決してありません。お母さんと赤ちゃんにとって一番良い方法を一緒に考え、安全にお産を終えていただくことが最も大切です。

ベストな出産のために気軽に相談を
当院は「総合周産期母子医療センター」として、産婦人科医、麻酔科医、新生児科医、助産師が「ワンチーム」となり、24時間体制で母子の安全を守っています。もしもの時にも、救急科や集中治療室と連携し、迅速に対応できる体制が整っていることが、安心安全な環境で無痛分娩を提供できる当院の大きな強みです。
ご自身にとってベストな出産方法を選ぶために、不安なことや詳しく知りたいことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

| 施設名 | 富山県立中央病院 |
| 住所 | 富山県富山市西長江2丁目2番78号 |
| 公式サイト | https://www.tch.pref.toyama.jp/ |
| 初診受付 | 地域連携予約ありの場合/午前8時30分〜午前11時00分地域連携予約なしの場合/午前9時00分〜午前11時00分 |
| 再診受付 | 予約ありの場合/午前7時30分〜予約時間まで 予約なしの場合/午前9時00分〜午前11時00分 |
| 休診日 | 土・日・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日) ※ゴールデンウィーク、お盆等の平日は通常どおり |