お客さんの声から始まった専門店
「まずは、スープを飲んでください。」そう言われると、少し身構えてしまう。ラーメンなら、まず麺をすすりたい。でも、この店では違うらしい。
スープにすべてが詰まっている。その言葉の意味を知りたくて、富山市山室にオープンした「らーめん出汁と麺」を訪ねた。

店内に入ると、まず驚くのはラーメン店らしくないことだ。白を基調とした明るい空間。どこかカフェのような清潔感が漂う。
カウンター席とテーブル席を合わせて20席。決して多くはない席数だがゆったりとした配置になっている。


空間の余白が心地いい。人気店になればなるほど席数を増やしたくなるものだと思っていた私は、「もったいないな」と一瞬考えてしまった。
でも、この空間に座っていると、その考えはすぐに消えた。ラーメンを落ち着いて味わってほしい。そんな店の思いが、この距離感から伝わってくる。
実はらーめん 出汁と麺は、最初から専門店として生まれたわけではない。富山市大島にある海鮮丼や寿司、刺身が人気の鮮魚店「魚丸鮮魚店」で、土日だけ数量限定で提供されていた一杯だった。
ところが、そのラーメンが評判を呼ぶ。昼前には売り切れ、販売開始から1時間もしないうちに完売する日も珍しくなかったという。
「もっと食べたい。」「ラーメンだけのお店を出してほしい。」
そんなお客さんの声に背中を押され、2026年春、「らーめん出汁と麺」として独立した。

オープン後も、その勢いは予想以上。店主も驚くほど多くのお客さんが足を運んでいるそうだ。
では、何が人を引きつけるのか。その答えは、やはり店名にもなっている「出汁」にある。
一杯に込めた和の技

運ばれてきたのは、一番人気の「醤油らーめん 1,000円(税込)」。
透き通った琥珀色のスープは美しさに思わず見入ってしまう。表面には澄んだ油がきらりと輝き、湯気とともに出汁のやさしい香りが立ち上る。

麺は細めのストレート麺。このスープに合う一本を選び抜いたという。
丼の上には鮮やかなミツバと長ネギ。シンプルな見た目だからこそ、スープそのものが主役であることを感じさせる。

スープの材料は煮干し、昆布、かつお節、鶏ガラ、もみじ、野菜…。素材を惜しまず使い、時間と手間をかけてうま味を積み重ねていく。
しかも、その出汁のとり方と配合は、和食の世界で培ってきた技術が土台になっているという。店主の加藤薫さんは以前、居酒屋を営んでいた経験がある。

和食では、出汁が料理の土台になる。昆布をどう入れるのか。火加減をどうするのか。素材の香りをどう生かすのか。その積み重ねが、ラーメンにも息づいている。だからこそ、店主は最初にこう言う。
「まずはスープを飲んでください。」
実際に口に運ぶと煮干しが前に出るのかと思えば、それだけではない。昆布のやさしいうま味が重なり、かつお節の香りがふわりと広がる野菜の甘みが全体をまとめる。
一つの食材が主張するというより、それぞれが役割を持ちながら支え合っている。派手さではなく、積み重ねの味。

そして、そのスープを受け止めるのが細めのストレート麺だ。もちもちを狙ったわけでも、強いコシを競ったわけでもない。このスープに最も合うものを選んだ結果が、この麺だった。
麺だけが目立つこともない。スープだけが強すぎることもない。互いを引き立てながら、一杯として完成している。伝えたいのは、店名にある「出汁と麺」その二つだけで十分なのだ。
出汁が記憶に残る一杯

※2026年6月時点
ラーメンには、それぞれの店の個性がある。濃厚さを競う店。パンチを追求する店。ボリュームで驚かせる店。そんな中、この店が勝負しているのは、出汁という日本人が昔から親しんできた味だった。
丁寧につくられた一杯は、不思議と記憶に残る。
店主の言葉「まずはスープを飲んでください。」この一言は、自信ではなく、積み重ねてきた時間そのものだったのかもしれない。
次に訪れたときも、きっと私は麺より先にレンゲを手に取る。そんなラーメンに出会えたことがとても嬉しい。
| 店名 | らーめん 出汁と麺 |
| 住所 | 富山市山室5−1 |
| 公式Instagram | https://www.instagram.com/dashitomen804/ |
| 営業時間 | 10:00~17:30(17:00 LO) |
| 定休日 | 水曜 |
| 駐車場 | 有 |
| 予約可否 | 不可 |
| 決済方法 | 現金、QRコード決済 |
| 座席数 | 20席 |