朝7時、103年続く老舗喫茶店へ
少し早起きをして、始発の市内電車に乗って西町へ。周りのお店のシャッターが閉まる中、朝7時、一番に扉を開いたのが【純喫茶ツタヤ】でした。


店内に入ると漂ってくるのは、香ばしいコーヒーの香り。出勤前に立ち寄る常連さんや、旅先の朝ごはんを楽しみにやってきた県外からの観光客が、次々と店内へ入ってきます。
静かだった街が少しずつ目を覚ましていく。その時間を喫茶店の窓から眺めるだけでも、いつもの朝とは少し違って感じられました。

純喫茶ツタヤの歴史は、大正時代までさかのぼります。
前身となる「コーヒー店ツタヤ」が開店したのは、1923年。大正ロマンの文化が花開き、洋装に身を包んだ「モボ・モガ」と呼ばれる若者たちが街を歩いていた時代です。店名の「ツタヤ」は、当時、建物の壁を覆い尽くすほどツタが這っていたことに由来するそう。
そんな雰囲気のある店で、当時の若者たちもコーヒーカップを片手に語り合っていたのでしょうか。そう想像しながら過ごすと、100年以上前の富山の街がほんの少し近くなったような気がします。
現在、店を守るのは4代目店主の宇瀬 崇(うせ たかし)さん。時代の変化とともに昔ながらの喫茶店が少なくなっていく中、「歴史を感じられる空間を残したい」という思いで店を営んでいます。

個性あふれるメニュー
純喫茶ツタヤのメニューを見てみると、歴代店主から受け継がれてきたもの、4代目になって復活したもの、地域のお店とのつながりから生まれたものなど、この店ならではのメニューが並びます。

27年ぶりに復活したモーニング

純喫茶ツタヤでは、長い歴史の中でモーニングの提供を休止していた時期がありました。それを4代目の宇瀬さんが27年ぶりに復活。
いくつかあるメニューの中から、今回はトーストとオムレツ、コーヒーのセットを注文しました。印象的だったのが、毎朝フライパンで一つずつ作るオムレツです。

ふっくらと膨らんだ卵にフォークを入れると、中はとろりと半熟。空気をたっぷり含んだふわふわの食感で、一口食べただけで朝から幸福感に包まれます。コーヒーは「ツタヤブレンド」を注文。酸味とコクのバランスがよく、朝にもすっと飲める一杯でした。
窓の外を見ると、先ほどまで静かだった西町に人が増え、市内電車が行き交い始めています。街が動き出していく様子を眺めながら、100年続く喫茶店でゆっくり朝ごはんをいただく。
チェーン店のような価格ではありませんが、料理だけではなく、この場所で過ごす朝の時間そのものを味わうモーニングなのだと感じました。
見つかったレシピから蘇った「復刻カレー」

もう一つ、純喫茶ツタヤの歴史を感じられるのが「復刻カレーライス」です。もともとは2代目店主・孝吉さんが考案したもの。しかし、長い間そのレシピが見つからず、“幻のカレー”となっていました。それがあるとき、親戚の家からレシピを発見。再びお店で提供されるようになりました。
宇瀬さんいわく、「カレーパンの中に入っていそうなカレー」。カレーにはスパイスと野菜がとけこんでいて、幅広い世代が食べやすいどこか懐かしい味です。トッピングに豪快なチキンカツをのせた「チキンカツカレー」もおすすめです。

(チキンカツカレー 税込1,700円 提供:宇瀬さん)
宇瀬さんがカレーに合うトッピングを探していた際、市内電車沿いにある「まるぜん精肉」に相談したことから生まれました。まるぜん精肉も3代続く歴史あるお店。時代の変化を乗り越えながら商売を続けてきた店同士だからこそ生まれた一皿には、味だけではない物語があります。
コーヒーの意外なおとも

純喫茶ツタヤらしさをさらに感じるのが、コーヒーのおともです。定番はなんと燻製チーズ。宇瀬さん自ら桜チップを使って燻製しています。
始めたのはこちらも2代目の孝吉さん。コーヒーの苦味や酸味に、チーズのコクとまろやかさがよく合うと考えたそうです。ワインとチーズが合うように、コーヒーとチーズも相性がいい。聞けば納得ですが、喫茶店で出会うとちょっと意外です。

(あん入りコーヒー 税込750円)
そして、さらに驚いたのが「あん入りコーヒー」。近くにある竹林堂のあんこがたっぷり添えられています。そのまま別々に味わってもいいのですが、おすすめはコーヒーの中にあんこを入れること。
実際に試してみると、コーヒーのほろ苦さとあんこのやさしい甘さが互いを引き立て、想像以上によく合います。コーヒーにはちみつを入れるような感覚で、あんこを入れるのもアリなのかもしれません。
4代目がつなぐ「個性的な喫茶店」

店内を見渡していてもう一つ気になるのが、ミニカーです。実は宇瀬さん、大の車好き。ミニカーだけで1500台以上コレクションしているそうです。さらに店の前には愛車が停まり、その情熱は車雑誌に取り上げられるほど。
宇瀬さんは、車からファッションや文化など、さまざまなことを学んできたといいます。「昔はいろいろなメーカーがオリジナリティあふれる車を作っていて、メーカーごとの哲学を感じた。純喫茶ツタヤも老舗でありながら、個性的な喫茶店でありたい」
その言葉を聞いて、冒頭で思い浮かべた大正時代の「モダンボーイ」がふと頭に浮かびました。100年前、この店で新しい文化だったコーヒーを楽しんでいたモボ・モガたち。そして現在、車やファッションを愛しながら、自分らしい感性で100年の店を未来へつなごうとする4代目。
時代は違っても、この場所にはずっと、自分らしい生き方を楽しむ人たちの文化が流れているのかもしれません。
ちょっと早起きして味わいたい、富山の朝
店を出る頃には、西町のシャッターも次々と開き、街はすっかりいつもの表情に戻っていました。ほんの少し早起きしたから出会えた、静かな富山の街。市内電車が走る音を聞きながらいただく、ふわふわのオムレツとコーヒー。純喫茶ツタヤで味わえるのは、朝ごはんだけではありません。
大正時代から受け継がれてきた歴史と、歴代の店主たちのアイデア、そして「この場所を残したい」という4代目の思い。新しい店が生まれては消えていく時代に、100年以上そこにあり続ける場所には、それだけで物語があります。
富山を訪れた朝は、いつもより少しだけ早起きをして、100年続く喫茶店から一日を始めてみるのもいいかもしれません。

| 店名 | 純喫茶ツタヤ |
| 住所 | 富山市堤町通り1-4-1 |
| 公式サイト | http://www.tsutaya-coffee.com/ |
| 公式Instagram | https://www.instagram.com/tsutaya.coffee.toyama.jp/ |
| 営業時間 | 平日 7:00-15:00 土日祝 7:00-17:00 |
| 定休日 | 火・水 |
| 駐車場 | なし |
| 問合せ先 | 076-424-4896 (火曜・水曜定休 平日7時~15時 土日祝7時~17時) |
| 予約可否 | 不可 |
| 決済方法 | 現金、クレジットカード、各種QRコード決済 |
| 座席数 | 店内 19席 テラス席 9席 |